を一々引きのばして長いものに出かす時日と根気があれば日本一の大文豪に候。このうちにて物になるのは百に一つ位に候。草花の種でも千万|粒《りゅう》のうち一つ位が生育するものに候。然しとにかく妙な気分になり候。小生はこれを称して人工的インスピレーションとなづけ候。小生如きものは天来のインスピレーションは棚の御牡丹と同じ事で当にならないから人工的にインスピレーションを製造するのであります。近頃は器械で卵をかえすインキュベトーというものがあります。文明の今日だから人為的インスピレーションのあるのももっともでしょう。そこでこの七月には何でも四篇ばかりかく積りです。前にいう漫然たる恵比寿《えびす》ぎれのようなものは雲の如くあるがさてまとまったものは一つもない。どれを纏めようか、またどう纏めようかその辺は未だ自分でも考えて居ないのであります。実は来学年の講義を作らなければ大雄篇をかくか大読書をやる積りだが講義という奴は一と苦労です。これは八月に入ってからかき出す積りです。
 伝四は文学士になり候。小生も文学士に候。して見ると伝四と僕とは同輩に候。同輩である以上はこれから御馳走の節は万事割前に致そうかと
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