ものだかこの頃機嫌が悪くって困るのです。少し表てに出てお友達を訪問でもすれば慰むところもあろうと思うのですけれどもそういうことはちっともしません。それで寺田さんにもお頼みしたのですが、あなたも間《ひま》な時にはチトどこかに引張り出してくれませんか。」
とこういう意味の話であった。私はその意味を了承して帰った。そうしてそれから間もなく本郷座の芝居を見に引っ張り出した。氏は頗《すこぶ》る出渋っていたけれども終《つい》に私の言うことを聞いて出かけた。それは高田、藤沢などの壮士芝居で外題《げだい》は何であったか忘れたが、とにかく下らないものであった。氏は極めて不愉快そうな顔をしてこの芝居を見ていたが、我慢がし切れなくなって様々の冷評を試みはじめた。終《しま》いには、「君はいつもこんなものを見て面白がっているのですか。」などといって私を攻撃しはじめた。そうして中途で帰ってしまった。
私は細君に約束した以上一度で止めてしまうわけに行かなくって更に明治座かどこかの歌舞伎芝居に一度と、能に二、三度引っ張り出した。歌舞伎芝居の方は油屋《あぶらや》お紺《こん》かなんかであったように記憶して居る。その時も
前へ
次へ
全151ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
高浜 虚子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング