うです。襖《ふすま》のたて合せのまんなかの木ぎれをもらっておひな様のこしかけにしたのを覚えています。
ほんとにくだらない事ばかりおゆるしを願います。松山にはどれ位御逗留かも存じません。この手紙どこでごらん下さるでしょう。
寒さの折からおからだをお大切に願います。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]よりえ
この手紙をよこした人は本誌の読者が近づきであるところの「中《なか》の川《かわ》」「嫁《よめ》ぬすみ」の作者である久保よりえ夫人である。この夫人はこの上野未亡人の姪に当る人である。ある時早稲田南町の漱石氏の宅を訪問した時に席上にある一婦人は久保猪之吉博士の令閨《れいけい》として紹介された。そうしてそれが当年漱石氏の下宿していた上野未亡人の姪に当る人だと説明された時に、私は未亡人の膝元にちらついていた新蝶々の娘さんを思い出してその人かと思ったのであったがそれは違っていた。文中に在る従姉とあるのがその人であった。このよりえ夫人の手紙は未亡人のその後をよく物語っている。あの家は今は上野氏の手を離れて他人の有となっているという事である。
この三十年の帰省の時、私はしばしば漱
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