度と存候。御風邪《ごふうじゃ》まだ御全快無之由存分御大事に願候。本日の面会日は謝絶致候。近来何となく人間がいやになり。この木曜だけは人間に合わずに過ごし度故先達失礼ながら御使のものにその旨申入候。もっとも謡の御稽古丈は特別に御座候。呵々。
 鏡花露伴両氏の作ただ今持ち合せず。『草迷宮』は先達て森田草平持ち帰り候。『玉《たま》かづら』は最初より無之候。近日来の「俳諧師」大にふるい居候。敬服の外無之候。ますます御健筆を御揮い可然候。以上。
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   三月十九日[#地から3字上げ]金之助
     虚子様
      ○
明治四十一年三月二十四日(封書)
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出来るならば一欄に組んで頂きたいと思います。
題は「創作家の態度」と致して置きましょう。
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 拝啓。多分明日は出来るだろうと思います。十九字詰十行の原稿紙でただ今二百五十枚許かいて居ります。多分三百枚内外だろうと思います。明日書き終って一遍読み直して差し上げたいと思います。何だかごたごたした事が出来て少々ひまをつぶします。頭がとぎれとぎれになるものだから大変な不経済になります。頓首。
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   二十四日[#地から3字上げ]金之助
     虚子様
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 御風邪は如何で御座いますか。
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      ○
明治四十一年五月二十八日(封書)
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 拝啓
 この手紙持参の人は宮沢|※[#「金+柔」、233−7]一郎《じゅういちろう》とて俳道執心のものに有之よし。今般四年がかりにて俳諧辞書編輯を了《お》え大倉書店より出版につき大兄の序文もしくは校閲願度旨にて参上仕候につき御面倒ながら御面会相願度と存候。本人は小生未知の人に候えども大倉書店よりの依頼にて一筆申上候。ただし大兄には運座の節一両度御目にかかり候由。まずは右当用のみ。草々不一。
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   五月二十八日[#地から3字上げ]金之助
     虚子先生梧下
      ○
明治四十一年五月三十日(葉書)
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 拝啓。木曜日には雨天にて御出無之。「俳諧師」頗る面白く候。十風が北海道へ行ってからが心配に候。あともどうかあの位に御振い可被下候。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
     高浜清様
      ○
明治四十一年六月三十日(葉書)
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 今日の北湖《ほくこ》先生|磊々《らいらい》として東西南北を圧倒致し候には驚入《おどろきいり》候。欣羨《きんせん》々々。
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五月雨や主と云はれし御月並
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   六月三十日[#地から3字上げ]夏目金之助
     高浜清機[#「機」に「(ママ)」の注記]
      ○
明治四十一年七月十日(封書)
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 拝復。小光《こみつ》はもっとさかんに御書きになって可然候。決して御遠慮被成間敷候。今消えては大勢上不都合に候。鼠骨《そこつ》でも今日の弥次郎兵衛《やじろべえ》の処は気に入る事と存候。「文鳥」十月号に御掲載被下候えば光栄の至と存候。十月なれば『東朝』へ承諾を求むる必要も無之かるべくと存候。「文鳥」以外に何か出来たら差上べく候えども覚束なく候。ドーデの「サッフォー」という奴をちょっと御読みにならん事を希望致候。名作に御座候。「俳諧師」の著者には大いに参考になるだろうと存候。
 今日の能楽堂例により不参に候。明日御令兄宅の御催し面白そうに候。ことによれば拝聴に罷り可出候。小生「夢十夜」と題して夢をいくつもかいて見ようと存候。第一夜は今日『大阪』へ送り候。短かきものに候。御覧被下度候。盆につき親類より金を借りに参り候。小生から金を借りるものに限り遂に返さぬを法則と致すやに被存甚だ遺憾に候。おれが困ると餓死するばかりで人が困るとおれが金を出すばかりかなあと長嘆息を洩らし茲に御返事を認め申候。頓首。
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   七月一日[#地から3字上げ]金
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鮟鱇《あんこう》や小光が鍋にちんちろり
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     虚子先生座右
      ○
明治四十一年七月四日(封書)
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 拝啓 また余計な事を申上て済みませんが小光入湯の所は少々綿密過ぎてくだくだしくはありませんか。小光をも描かず小光と三蔵との関係も描かず、いわば大勢に関係なきものにてただ風呂桶に低徊しているのではありませんか。そうしてその低徊がそれ自身に於てあまり面白くない。どうか小光と三蔵と双方に関係ある事で段々発展するように書いて頂きたい。そうでないと相撲にならない。妄言多罪。頓首。

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