目金之助
高浜清様
○
明治四十一年六月三十日(葉書)
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今日の北湖《ほくこ》先生|磊々《らいらい》として東西南北を圧倒致し候には驚入《おどろきいり》候。欣羨《きんせん》々々。
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五月雨や主と云はれし御月並
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六月三十日[#地から3字上げ]夏目金之助
高浜清機[#「機」に「(ママ)」の注記]
○
明治四十一年七月十日(封書)
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拝復。小光《こみつ》はもっとさかんに御書きになって可然候。決して御遠慮被成間敷候。今消えては大勢上不都合に候。鼠骨《そこつ》でも今日の弥次郎兵衛《やじろべえ》の処は気に入る事と存候。「文鳥」十月号に御掲載被下候えば光栄の至と存候。十月なれば『東朝』へ承諾を求むる必要も無之かるべくと存候。「文鳥」以外に何か出来たら差上べく候えども覚束なく候。ドーデの「サッフォー」という奴をちょっと御読みにならん事を希望致候。名作に御座候。「俳諧師」の著者には大いに参考になるだろうと存候。
今日の能楽堂例により不参に候。明日御令兄宅の御催し面白そうに候。ことによれば拝聴に罷り可出候。小生「夢十夜」と題して夢をいくつもかいて見ようと存候。第一夜は今日『大阪』へ送り候。短かきものに候。御覧被下度候。盆につき親類より金を借りに参り候。小生から金を借りるものに限り遂に返さぬを法則と致すやに被存甚だ遺憾に候。おれが困ると餓死するばかりで人が困るとおれが金を出すばかりかなあと長嘆息を洩らし茲に御返事を認め申候。頓首。
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七月一日[#地から3字上げ]金
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鮟鱇《あんこう》や小光が鍋にちんちろり
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虚子先生座右
○
明治四十一年七月四日(封書)
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拝啓 また余計な事を申上て済みませんが小光入湯の所は少々綿密過ぎてくだくだしくはありませんか。小光をも描かず小光と三蔵との関係も描かず、いわば大勢に関係なきものにてただ風呂桶に低徊しているのではありませんか。そうしてその低徊がそれ自身に於てあまり面白くない。どうか小光と三蔵と双方に関係ある事で段々発展するように書いて頂きたい。そうでないと相撲にならない。妄言多罪。頓首。
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