き被下度と存候。近来の漱石は色の出来ぬ男のように世間から誤解被致居り大に残念に候。以上。
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   四月十九日[#地から3字上げ]金之助
     虚子庵座側
      ○
明治四十年五月四日(葉書)
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「七夕《たなばた》さま」をよんで見ました。あれは大変な傑作です。原稿料を奮発なさい。先達《せんだっ》てのは安すぎる。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
     高浜清様
      ○
明治四十年五月四日(葉書)
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「花瀬川」はものにならず。伝四先生何を感じてこの劣作をなせるか怪しむべし。
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[#地から3字上げ]夏目金之助
     高浜清様
      ○
明治四十年七月十七日(松山一番町池内方高浜宛)(封書)
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 啓 松山へ御帰りの事は新聞で見ました。一昨日東洋城からも聞きました。私が弓をひいた※[#「土へん+朶」、第3水準1−15−42]《あずち》がまだあるのを聞いて今昔の感に堪えん。何だかもう一遍行きたい気がする。道後の温泉へも這入りたい。あなたと一所に松山で遊んでいたらさぞ呑気な事と思います。「大内旅館」についての多評は好景気の様也。三重吉は大変ほめていました。寅彦も面白いといいました。そこへ東洋城が来て三人三様の解釈をして議論をしていました。小生はよくその議論をきかなかった。小生の思う所は「大内旅館」はあなたが今までかいたもののうちで別機軸だと思います。そこがあなたには一変化だろうと存じます。即ちあなたの作が普通の小説に近くなったという意味と、それから普通の小説として見ると「大内旅館」がある点に於て独特の見地(作者側)があるように見える事であります。詳しい事はもう一遍読まねば何ともいえません。とにかく色々な生面を持って居るという事はそれ自身に能力であります。御奮励を祈ります。五、六日前ちょっと何を考えたか謡をやりました。一昨日東洋城が来た時は滅茶々々に四、五番謡いました。ことによったら謡を再興しようと思います。いい先生はないでしょうか。人物のいい先生か、芸のいい先生かどっちでも我慢する。両者揃えば奮発する。「虞美人草《ぐびじんそう》」はいやになった。早く女を殺してしまいたい。熱くってうるさくって馬鹿気ている。これイン
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