問した。宇之吉先生は綺麗《きれい》に油で固めた髪を額に波打たせその下に金縁眼鏡を光らせつつ玄関に突立って、
「もう二度と勝手なことをしなければ今度だけは復校を許すことにする。勿論前の級には駄目だから次の級に入れる。それで君も知っている通り今度高等学校制が変って京都の大学予科は解散することになったから、他の学校に生徒を分配する。君は鹿児島の造士館に行くことになっている。」との事だ。鹿児島と聞いて余は失望した。
もっとも東京から手紙で碧梧桐君に交渉した時にも鹿児島なら欠員があるから許してもいいというような話であったとの事であったので、どうか他の学校の方に運動して見てくれぬか、一高が出来れば申分ないが、それがむずかしければ二高でも四高でもいいなどと言って遣って碧梧桐君を労しておいたのだが、やはり鹿児島でなけりゃ駄目なのかと余はギャフンと参った。今考えれば鹿児島などかえって面白かったかとも思うのだが、その頃は造士館というとまだ大分蛮風の残っている話が盛んで、生温《なまぬる》い四国弁などでぐずぐずいうと頭から鉄拳《てっけん》でも食わされそうな心持もするし、それにまだその頃は九州鉄道も貫通してい
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