の屋根が現れ出るのである。
 ボーイと女給は面白そうに笑っているのである。
 そのボーイは、丁度窓の敷居の前に積っておる雪を、手のひらに丸めてはそれを放るのである。
 きょうは日曜である。しかも雪が降っている。時計はさっき十二時を打ったが、精養軒には余り客が無く、ボーイも女給も手持無沙汰なのであろう。そんな事をして遊んでいるものと見える。
 そういうわが事務所も休みである。或用事があって私一人出て来ているのである。どの部屋の窓のカーテンも皆下りてひっそり閑《かん》としている。たま/\わが隣室にはタイプライターを打つ音が響いている。この隣室にもタイピスト一人出て来ているものかも知れぬ。
 日曜の丸ビルは淋しい。エレベーターも半数は休んでいる。その動いている半数のエレベーターにも乗る人は少ない。
 売店にも客は少ない。
 食堂も同様である。かしこに一人、ここに一人という風に陣取っているだけだ。それも多くはそとから来た客だ。元来ここの食堂の客はこの丸ビルに通勤している事務員が多い。それに又近所の会社の勤め人が多い。日曜日はそれ等の客がげっそり減るので淋しい。
 九階の精養軒でボーイや女給が雪
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