手の誰であるかという事にもとより頓著はない。小僧、給仕、車夫、勤め人、女給、禿頭、様々な人が群集して来ているが、総てに対してそうである。かの多くの三等局などで、速達便を持って行くと、前に誰かが出したただ一本の書留郵便を処理するのに悠々と時間を費し、漸くその書留郵便を終ると、はじめて速達便に移って、わかっている目方のものを鄭重に秤《はかり》にかけて見てやっと受取るようなのとは大変な相違である。
余り無造作なので、あれで無事に配達してくれるかと思う事もあるが、三、四時間の後《のち》にたしかに先方で受取ったという電話がかかる。
普通郵便物にしたところでポストに抛り込むように出来てはいるが、そこに一人いる局員に手渡しても受取ってくれる。彼は受取るかたわら地方別にしている。
雑誌などを車で引き込むと、すぐ向うの方で、それが処理されている様子である。
郵便の赤自動車は絶えず裏口から出ている。
万事が簡捷《かんしょう》で、少しも手数を要せぬ。それに局員が勤勉で無造作である。
私はこのバラック建の中央郵便局が好きである。たま/\現在の局員が皆いい人なのかも知れぬが、そればかりでもあるまい。矢張り沢山の人が来るこの郵便局は自然|斯《こ》うなくてはならないのであろう。それにバラック建という事が局員の気を軽くするところもあろう。
中央郵便局はやがて立派な建築をするということである。そうすれば東京駅頭に又美しい建物が一つふえるであろう。立派な建築が出来たらこんな風に無造作には行かなくなるかも知れぬ。併しわが愛する中央郵便局はどこまでもかく無造作にありたい。無造作にあるように窓口の建築をする事だ。
山中で凍死する集配人にも敬意を表するが、この中央郵便局員にも敬意を表する。
惜別
丸ビルのホトトギス発行所で社員が新しく出来て来た雑誌の発送をしていた。二、三人の俳人も来合せてその手伝いをしていた。そこへヒョコッと淋し気な顔を出した男がある。それは近々来るという事がわかっていたので、発行所のものや、その俳人達も暗に待っていたところのものであった。
その男も矢張り俳句を作る男で新潟の片田舎のものであった。それが商売の方が面白く行かないためか、外に理由があってか、今度ブラジルに移住することになったのである。もう近々渡航するという話であった。
「どうしたんだろう。ちっとも
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