。深水はからだをのりだすようにして、
「そりゃええ、パトロンが出来たなら、鬼に金棒さ、うん――」
ゆあがりの胸をひろげて、うちわを大げさにうごかしている。頭髪にチックをつけている深水は、新婚の女房も意識にいれてるふうで、
「――わしも応援するよ、普選になればわれわれ熊連は市会議員でも代議士でも、ドンドンださんといかん」
いいながら、こんどは三吉を仲間にいれようとする。
「君ァどうかね? え、わしがパトロンをめっけてやってもええが」
三吉は早くかえらねばならぬと思っている。専売局の截刻工である深水は、かねてから市会議員などになりたがっていた。しかしまだ印刷工組合に小野鉄次郎がいたころは、彼にしろ長野にしろ、こんなに露骨にはいわない筈《はず》であった。
「高坂が準備してるいうやないか?」
こんどは長野が三吉をのぞきこんだ。高坂はやはり印刷工組合の幹部で、自分で印刷工場も経営している。一方では憲政会熊本支部にもひそかに出入《でいり》している男であるが、小野、津田、三吉の労働幹部のトリオがしっかりしているうちは、まだいうことをきいていた。
「きみィ、応援するのやろ?」
三吉が黙ってい
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