めがちに一つところへ眼をおいてゐる。
「さア、活字のことはあまり氣をつけてゐないので……」
 口數すくなく階下へおりてゆくと、持重りのする古びた洋書を五六册かかへてきて、その一つを私の前において、簡單に云つた。
「これが、それですけれど――」
 實物があらうとは思ひがけなかつた。いま眼前にあるそれが洋學年表では片假名で書かれる有名な「サツマ辭書」ではないか! 私はいきなりその大きな書物を眞ン中からあけた。そして直覺的に「ちがふ!」と感じた。これは日本の印刷物ではない!
 菊判より大きく四六倍判より小さいが、左にならんでゐる歐文はパイカで、例の「單語篇」のイタリツクとちがひ、假に嘉平もパイカを作つたにしても字形が洗練されすぎてゐる。むしろ疑問は右にならんでゐる和文の活字、漢字よりも特に小さくしてある片假名にあつた。その並び方も日本で作られた蘭和辭書などと同じで、一方が鉛活字の歐文に、その脇ツ腹へ頭をおつつけて縱書に、つまりねた形の、それと同じ式である。
「或は上海の美華書院か知れませんね、ヘボンの辭書はたしかさうだといひますね。」
 I・K氏は、さう云つておいて、私が返辭せぬうちに、また
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