理解した。
「しかし、この本の活字はたしかにそれだと、私は思つてゐるんだが――」
また奧の室から一册の本を抱へてきて、私の膝にのせながら、K・H氏は云つた。
「オランダ文法の單語篇ですがネ、江戸で印刷されたものだといふことは明らかのやうですよ。」
古びた青表紙の大福帳のやうな本である。分厚く細ながく、袋綴の和紙に、こまかいイタリツク風の歐文活字で印刷してあつたが、一見鉛活字だといふことは明らかだ。
「ネ、この字づらの不揃ひな點など、輸入活字とちがふと思ひませんか。」
私も同感であつた。K・H氏の説明によると、この「和蘭文法書」は、當時の江戸書生の間にひろく讀まれたものださうで、これより少しさき、安政三年から四年へかけて、長崎奉行所でも和蘭文法書の「成句篇」「單語篇」が刊行されたが、それは輸入活字であつて、字形がちがふといふのであつた。
私はもすこし木村の活字の行衞を知らうと思つた。K・H氏は私の考へに贊成してくれて、二三の參考書を貸してくれながら、
「I・K氏を知つてますか?」
と訊いた。私は少しまへに長崎通詞のことで、友人の紹介で一度I・K氏を訪ねたことがあつた。江戸期にお
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