本もはいつてゐないといふことは、昌造の「流し込み活字」が未だ非常に粗末であつて「プレス印刷」に堪へないか、本格的な文法書には使用し得ない程僅少であるからであつたらう。
インデルモウルなる人物が專門の活版技師であるかどうか私は知ることが出來ない。しかしこの活版技師は電胎法による活字鑄造はまつたく行はなかつたやうである。それはこの長崎奉行所の印刷工場が活字の凡てを和蘭から補給せねばならぬため採算上廢絶するに至つたといふ事情でも明らかであるが、活版技師ともあらうものが比較的容易な洋活字の再鑄をも行はなかつたといふことはをかしい。たぶん若干の知識經驗があるといふ程度ではなかつたらうか? したがつて摺立係として密接な關係を持つた筈の昌造も、この和蘭人から學ぶところは大したものではなかつたらうと想像される。この長崎奉行所印刷工場が日本の印刷術に與へた功績の若干は、主としてその「プレス式印刷」の實際であつたらう。「印刷文明史」が傳へるところでは、「民間にありても漸く洋式活版術が行はるることとなり、洋字、漢字、假名の混淆した書册が刊行さるることとなつた。安政六年鹽田幸八の發行したる「最新日英通俗成語
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