折の誠に杜撰な本である。
 福島惠次郎氏(長崎共益館書店主)
 ――「蘭話通辯」は四五年前、めづらしく二册手に入りましたが、何人かに賣りました。――本の形は黒表紙で、中身は英語の活字と日本の片假名活字とで印刷した百頁程のうすい、美濃四ツ折くらゐな本でした。
 小西清七郎氏(東京菊坂町書店主)
 ――「蘭話通辯」は二三年前に店にありましたが、今はありません。確かに二圓六十錢で賣つたと記憶してゐます。本の形は美濃四ツ折で、粗末な活字と片假名の混合した内容でした。
 早稻田米次郎氏(長崎古道具店主)
 ――「蘭話通辯」は黒い表紙で、今でいふ四六判ですな。中身は昔の帳面につかふ紙で、外國の字と日本のきたない片假名字で、粗末な本です。四五年前に一册誰かに賣りました。(――其他略)
 三谷氏のこの調査は昭和七年九月である。ちやうど十年前のことだから、三谷氏の文章を信ずる限り、以上の人々の多くが現存するだらう。そして更に以上の人々の言を信ずる限り、この日本で一ばん最初に「流し込み活字」でつくられた貴重な書物は、まだ日本のどこかに現存してゐるのであらう。「黒い表紙」の「美濃四ツ折」の、きたない本は、日
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