ではなからうか? そして祕密に諮問されたこの事實が評定所内部から田原藩家老渡邊登へ洩れた。以下渡邊崋山は「愼機論」を書き高野長英は「夢物語」を著はし、ひいて蠻社遭厄事件となつたことは周知の通りである。つまりモリソン號事件への世評は意外の反響をよび、崋山が自殺した翌年「打拂改正令」は出されたが、それによつてもまだ幕閣の苦心は柔らげられなかつたのである。
開國是か非か? イギリスを先頭とする諸國の勢力は東漸して支那大陸に及び、勢ひは明日にも日本海岸に及ばんとしてゐる。しかも自主的に開國するには國内準備が遲れてゐるし、殊に家光以來の鎖國傳統は、牢固たるものがあつた。そしてモリソン號を追ひ返してわづか六年、弘化元年六月には、和蘭の軍艦「パレムバン」が、日本ではじめてみる蒸汽軍艦が長崎にあらはれたのであつた。
「パレムバン」は、和蘭國王の「開國勸告」の書翰を捧持してゐた。和蘭が開國を勸告する眞意には、もはや彼のヨーロツパにおける國際的勢力が日本を一人己れの顧客として他の諸國と楯つくだけのものを失ひ、それよりは時運に基いて開國を勸め、さうした交誼によつて從來のやうに特惠國ではないまでも、有利の位
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