て其郷土に送還するは、日本國訪問に好箇の口實をなすべきも、若し同國政府にして該遭難海員を受領する事を拒絶せば、之をして日本國海岸の何れの處にてか上陸、郷土へ歸還せしむべし。あらゆる機會を利用して好意を示すを旨とし、頑迷なる東洋流の無愛想をも意に介すべからず。日本人の感情を害する如き擧動を極力愼むべし――云々」
「燒酎の味仕候」火酒を飮み、世界地圖を見、地球儀をみておどろいた僧龍門の報告と、その六年前に書かれたロシヤ元老院の記録とをならべてみると、既にロシヤがあらゆる意味でどんな大敵であつたかを思はせる。彼處には「友誼の表徴」といふ文字があり「東洋流の無愛想」といふ豫備知識があつたのだ。爾來ロシヤの對日方針は、ピヨトル大帝のそれに副うてゐるものがあるやうだが、一國の政治にはそれぞれ複雜な變遷があるし、言葉も文字も通じない未知の國同志の理解の喰ひちがひは屡々おこつた。「はんぺんごらう事件」と「フオストフ事件」とは、安政二年川路プーチヤチンによる日露修好條約が結ばれるまでの百年間、ロシヤ側の執拗なる日本訪問にかかはらず、日本側の除きがたい惡感情の種子となつたやうである。
 明和八年(一七七一
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