がウィーンに拠って後、ベルリンの劇壇において当夜演出者《アアベント・レジッスウル》による多くのラインハルト演出が行われ、またモスコオのテアトル・ワフタンゴワで、ワフタンゴフの夭折後、幾度かワフタンゴフ演出が繰返されるのと軌を一にした現象であるが、日本の劇界においては死後なおその人の名によって過去の舞台を再現し得るほど明細精密な演出プランを残したレジッスウルは、小山内先生をもって嚆矢とするのである。追悼記念公演の名のもとに、築地および京阪中京の三都に上演される「夜の宿」「桜の園」は、この意味における日本最初の追憶的舞台である。
 築地小劇場は、最もよき指導者、最もよき同志としての小山内先生の遺志を奉じて、その最もよき後継者たるべく最善の努力を続けなければならない。ただわれわれが戒心を要するのは、小山内先生を追慕し哀悼するのあまり、先生の遺志を現在形[#「現在形」に傍点]において遵奉することにのみ汲々として、これを未来形[#「未来形」に傍点]において継承するのを忘れてはならないという一事である。われわれが小山内先生の屍を乗り越えて前進する時、はじめて洋々たる未来がわれわれを迎えるであろう。



底本:「久保 栄全集 第五巻」三一書房
   1962(昭和37)年10月5日 第一刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年12月4日作成
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