富な経験とを傾倒し、永遠の若さと尽きざる精力とをもって、内外の名作を演出せられること四十五篇、エリザベス朝の古典より世界大戦後の新傾向まで包含してあますところなく、今や先生畢生の念願たる国劇樹立の緒につかんとする時、溘焉《こうえん》として世を去られたのであります。先生の懇切な御指導のもとに専心演劇研究に精進しつつあったわれわれは、このにわかの悲しみに遭って哀悼痛惜の念に耐えません。
われわれ築地小劇場員は、今日先生の御遺骸をわれわれの戦い守った築地の舞台に安置して、心からなる追慕と心からなる感謝とを捧げます。この舞台こそ、先生が親しくわれわれを指導しわれわれを鞭撻せられた思い出の道場であります。この舞台こそ、亡き先生の御魂の眠る永遠の祭壇であります。先生の颯爽たる御姿は、今なお髣髴としてわれわれの眼前に浮び、先生の凛然たる御声は、今なお朗々としてわれわれの耳朶を打ちます。しかもわれわれは永久に、幽明境を距てた先生の温容に接することができません。
小山内先生
しかしわれわれ八十人の同志は、先生の遺志を奉じて、最後の一人にいたるまで、われわれの本城たる築地小劇場を守る覚悟であります。ここに先生の霊前にわれわれの決意を誓って、哀悼の詞《ことば》に代えるものであります。
昭和三年十二月二十八日
[#地から2字上げ]築地小劇場員一同
底本:「久保 栄全集 第五巻」三一書房
1962(昭和37)年10月5日第1刷発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年12月4日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久保 栄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング