たのにたいして、ペエル・ギュントは「汝自身を享楽せよ」という信条のもとに人生をさまよい歩きながら、どこにも安住の地を見出せなかったエゴイストであります。ブランドが「全か無か」を標榜して、いつも退路を断ちながら進んだのに反して、ペエルは、いつでもうしろのドアを明け放しておく卑怯者であったのです。ちょうど、ゲエテがファウストとメフィストフェレスに二つのことなる自我を描いているように、ブランドとペエルとは、イプセンの性格の両極を意味するものであり、彼の二つの分身であります。ノルウエの観客は、「ブランド」の台辞の一行ごとに、「かくのごとくあれ」というサボナロレスクな叱※[#「口+它」、第3水準1−14−88]の声を聴くとともに、一方「ペエル・ギュント」の一場一場から、これがお前の姿だという嘲笑の声を聴きのがさなかったに相違ありません。そして、今度、帝劇で上演される「ペエル・ギュント」の舞台から、ノルウエ人ならぬわれわれもまた、これがお前の現実の醜い姿だというイプセンの戒めの言葉をうけとるに相違ないのです。今度の演出は、少年時代を青山さん、壮年期を土方さん、老年のペエルを小山内先生という分け方で
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