が今ははっきり自分に判って来た。罰せられるであろうと云う事も朦気《おぼろげ》乍ら判って来た。夫れは諦めなければならないものであった。
「オイッ、一寸待てッ」
 巡査の声で彼は大きな恐怖の鉄槌《てっつい》に打たれた。一瞬間の後巡査の顔を見た。巡査は全く外《ほか》の方を見て居った。其眼の先を追った時、其処には中年の、召使とでも云った様な女が途《みち》の脇を小さくなって歩いて居た。
「ハイッ」其女は電気にでも打たれた様に立ち止った。
「此方へ来いッ」巡査は云った。
 此処に二人を取調べて居乍ら、巡査の心持には余裕があるのに驚かされた。
「私は何も知りません」中年の女は体を横に撚《ね》じって胸の辺りを隠す様にして行き過ぎようとした。
「待たんかッ」巡査の声は鋭くなった。
「此隙に!」彼の心には逃走の意志が閃《ひらめ》いた。が、次の瞬間に彼は住所を知らした事を思い出した。
 中年の女はずるそうな眼をし乍ら近寄って来た。巡査は其方へ向き直った。
「お前は此万引した女から半襟を受取って持って居るだろう。お前達は此先の停留場で落ち合う約束だったろう。所が此女が余り遅いので様子を見に来たに相違ない。所が
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