跟けた時から彼女が知って居たのに驚かされた。自責と之れに依って起る恐怖とで全身がわなないた。慄え声で住所と姓名を辛うじて答えた。名刺も云われる儘に出して見せた。初め探偵と称した事の偽も、警視庁刑事と偽った事も女の云った通り白状した。叱られる儘に只平謝罪に謝罪った。彼は疾《とっ》くに既うこうして謝罪りたかったのであったが、流石《さすが》に女の前では出来難《できにく》かった間に、ずんずんと女に引摺《ひきず》られて嘘許り云ったのであった。其処へ持って来て巡査は飽迄《あくまで》彼を追窮した。自分の罪を自覚し自責して居る彼は、彼女が云った様に停車場から女の後を跟けた事から白状した。白状しては叱られた。叱られる度毎に謝罪しては又白状した。
 彼は彼女が半襟を袂《たもと》へ抜取った様に見受けた事と、便所の中へ這入って包紙の中へ入れたらしい事とを語った時、女は横合から屡々《しばしば》口を出した。持って居る包みを開いて二人の前へ差し出した。包紙の下には一反の銘仙がある許りであった。其金の請求票も見せられた。袂の中に半襟が無い事も明白と成った。彼は散々に罵倒を浴せられては謝罪を繰返して居た。大罪人である事
前へ 次へ
全18ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
川田 功 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング