》につつまれたひとつの小石がころがっていた
春
原へねころがり
なんにもない空を見ていた
春
朝|眼《め》を醒《さ》まして
自分のからだの弱いこと
妻のこと子供達の行末《ゆくすえ》のことをかんがえ
ぼろぼろ涙が出てとまらなかった
春
黒い犬が
のっそり縁側《えんがわ》のとこへ来て私《わたし》を見ている
桜
綺麗な桜の花をみていると
そのひとすじの気持ちにうたれる
神の道
自分が
この着物さえも脱《ぬ》いで
乞食《こじき》のようになって
神の道にしたがわなくてもよいのか
かんがえの末は必ずここへくる
冬
悲しく投げやりな気持でいると
ものに驚かない
冬をうつくしいとだけおもっている
冬日《ふゆび》
冬の日はうすいけれど
明るく
涙も出なくなってしまった私《わたし》をいたわってくれる
森
日がひかりはじめたとき
森のなかをみていたらば
森の中に祭のように人をすいよせるものをかんじた
夕焼
あの夕焼のしたに
妻や桃子たちも待っているだろうと
明るんだ道をたのしく帰ってきた
霜《しも》
地はうつくしい気持をはりきって耐《こ》らえていた
その気持を草にも花にも吐《は》けなかった
とうとう肉をみせるようにはげしい霜をだした
冬
葉は赤くなり
うつくしさに耐《た》えず落ちてしまった
地はつめたくなり
霜をだして死ぬまいとしている
日をゆびさしたい
うすら陽《び》の空をみれば
日のところがあかるんでいる
その日をゆびさしたくなる
心はむなしく日をゆびさしたくなる
雨
窓をあけて雨をみていると
なんにも要《い》らないから
こうしておだやかなきもちでいたいとおもう
くろずんだ木
くろずんだ木をみあげると
むこうではわたしをみおろしている
おまえはまた懐手《ふところで》しているのかといってみおろしている
障子《しょうじ》
あかるい秋がやってきた
しずかな障子のそばへすりよって
おとなしい子供のように
じっとあたりのけはいをたのしんでいたい
桐《きり》の木
桐の木がすきか
わたしはすきだ
桐の木んとこへいこうか
ひかる人
私《わたし》をぬぐうてしまい
そこのとこへひかるような人をたたせたい
木
はっきりと
もう秋だなとおもうころは
色色なものが好きになってくる
あかるい日なぞ
大きな木のそばへ行っていたいきがする
お
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