ゆえなり
かなしみ
このかなしみを
ひとつに 統《す》ぶる 力《ちから》はないか
美しい 夢
やぶれたこの 窓から
ゆふぐれ 街なみいろづいた 木をみたよる
ひさしぶりに 美しい夢をみた
心 よ
ほのかにも いろづいてゆく こころ
われながら あいらしいこころよ
ながれ ゆくものよ
さあ それならば ゆくがいい
「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
まぼろしを 追ふて かぎりなく
こころときめいて かけりゆけよ
死 と 珠《たま》
死 と 珠 と
また おもふべき 今日が きた
ひびく たましい
ことさら
かつぜんとして 秋がゆふぐれをひろげるころ
たましいは 街を ひたはしりにはしりぬいて
西へ 西へと うちひびいてゆく
空を 指《さ》す 梢《こずゑ》
そらを 指す
木は かなし
そが ほそき
こずゑの 傷《いた》さ
赤ん坊が わらふ
赤んぼが わらふ
あかんぼが わらふ
わたしだつて わらふ
あかんぼが わらふ
花と咲け
鳴く 蟲よ、花 と 咲 け
地 に おつる
この 秋陽《あきび》、花 と 咲 け、
ああ さやかにも
この こころ、咲けよ 花と 咲けよ
甕《かめ》
甕 を いくつしみたい
この日 ああ
甕よ、こころのしづけさにうかぶ その甕
なんにもない
おまへの うつろよ
甕よ、わたしの むねは
『甕よ!』と おまへを よびながら
あやしくも ふるへる
心 よ
こころよ
では いつておいで
しかし
また もどつておいでね
やつぱり
ここが いいのだに
こころよ
では 行つておいで
玉《たま》
わたしは
玉に ならうかしら
わたしには
何《なん》にも 玉にすることはできまいゆえ
こころの 海《うな》づら
照らされし こころの 海《うな》づら
しづみゆくは なにの 夕陽
しらみゆく ああ その 帆かげ
日は うすれゆけど
明けてゆく 白き ふなうた
貫《つら》ぬく 光
はじめに ひかりがありました
ひかりは 哀しかつたのです
ひかりは
ありと あらゆるものを
つらぬいて ながれました
あらゆるものに 息《いき》を あたへました
にんげんのこころも
ひかりのなかに うまれました
いつまでも いつまでも
かなしかれと 祝福《いわわ》れながら
秋の かなしみ
わがこころ
そこの そこより
わらひたき
あきの かなしみ
あきくれば
かなしみの
みなも おかしく
かくも なやまし
みみと めと
はなと くち
いちめんに
くすぐる あきのかなしみ
泪《なみだ》
泪《なみだ》、泪《なみだ》
ちららしい
なみだの 出あひがしらに
もの 寂びた
哄《わらひ》 が
ふつと なみだを さらつていつたぞ
石 く れ
石くれを ひろつて
と視、こう視
哭《な》くばかり
ひとつの いしくれを みつめてありし
ややありて
こころ 躍《おど》れり
されど
やがて こころ おどらずなれり
竜 舌 蘭
りゆうぜつらん の
あをじろき はだえに 湧く
きわまりも あらぬ
みづ色の 寂びの ひびき
かなしみの ほのほのごとく
さぶしさのほのほの ごとく
りゆうぜつらんの しづけさは
豁然《かつぜん》たる 大空を 仰《あふ》ぎたちたり
矜持ある 風景
矜持ある 風景
いつしらず
わが こころに 住む
浪《らう》、浪、浪 として しづかなり
静寂は怒る
静 寂 は 怒 る、
みよ、蒼穹の 怒《いきどほ》りを
悩ましき 外景
すとうぶを みつめてあれば
すとうぶをたたき切つてみたくなる
ぐわらぐわらとたぎる
この すとうぶの 怪! 寂!
ほそい がらす
ほそい
がらすが
ぴいん と
われました
葉
葉よ、
しんしん と
冬日がむしばんでゆく、
おまへも
葉と 現ずるまでは
いらいらと さぶしかつたらうな
葉よ、
葉と 現じたる
この日 おまへの 崇厳
でも、葉よ
いままでは さぶしかつたらうな
彫られた 空
彫られた 空の しづけさ
無辺際の ちからづよい その木地に
ひたり! と あてられたる
さやかにも 一刀の跡
しづけさ
ある日
もえさかる ほのほに みいでし
きわまりも あらぬ しづけさ
ある日
憎しみ もだえ
なげきと かなしみの おもわにみいでし
水の それのごとき 静けさ
夾 竹 桃
おほぞらのもとに 死ぬる
はつ夏の こころ ああ ただひとり
きようちくとうの くれなゐが
はつなつのこころに しみてゆく
おもひで
おもひでは 琥珀《オパール》の
ましづかに きれいなゆめ
さんらんとふる 嗟嘆《さたん》でさへ
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