こころのなかに 花がさいた
白い 雲
秋の いちじるしさは
空の 碧《みどり》を つんざいて 横にながれた白い雲だ
なにを かたつてゐるのか
それはわからないが、
りんりんと かなしい しづかな雲だ
白い 路
白い 路
まつすぐな 杉
わたしが のぼる、
いつまでも のぼりたいなあ
感 傷
赤い 松の幹は 感傷
沼 と 風
おもたい
沼ですよ
しづかな
かぜ ですよ
毛蟲 を うづめる
まひる
けむし を 土にうづめる
春 も 晩く
春も おそく
どこともないが
大空に 水が わくのか
水が ながれるのか
なんとはなく
まともにはみられぬ こころだ
大空に わくのは
おもたい水なのか
お も ひ
かへるべきである ともおもわれる
秋の 壁
白き
秋の 壁に
かれ枝もて
えがけば
かれ枝より
しづかなる
ひびき ながるるなり
郷 愁
このひごろ
あまりには
ひとを 憎まず
すきとほりゆく
郷愁
ひえびえと ながる
ひとつの ながれ
ひとつの
ながれ
あるごとし、
いづくにか 空にかかりてか
る、る、と
ながるらしき
宇宙の 良心
宇宙の良心―耶蘇
空 と 光
彫《きざ》まれたる
空よ
光よ
おもひなき 哀しさ
はるの日の
わづかに わづかに霧《き》れるよくはれし野をあゆむ
ああ おもひなき かなしさよ
ゆくはるの 宵
このよひは ゆくはるのよひ
かなしげな はるのめがみは
くさぶえを やさしき唇《くち》へ
しつかと おさへ うなだれてゐる
しづかなる ながれ
せつに せつに
ねがへども けふ水を みえねば
なぐさまぬ こころおどりて
はるのそらに
しづかなる ながれを かんずる
ちいさい ふくろ
これは ちいさい ふくろ
ねんねこ おんぶのとき
せなかに たらす 赤いふくろ
まつしろな 絹のひもがついてゐます
けさは
しなやかな 秋
ごらんなさい
机のうへに 金糸のぬいとりもはいつた 赤いふくろがおいてある
哭くな 児よ
なくな 児よ
哭くな 児よ
この ちちをみよ
なきもせぬ
わらひも せぬ わ
怒 り
かの日の 怒り
ひとりの いきもののごとくあゆみきたる
ひかりある
くろき 珠のごとく うしろよりせまつてくる
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