わ が 児《こ》
わが児と
すなを もり
砂を くづし
浜に あそぶ
つかれたれど
かなし けれど
うれひなき はつあきのひるさがり
つばね[*「つばね」に傍点]の 穂
ふるへるのか
そんなに 白つぽく、さ
これは
つばね[*「つばね」に傍点]の ほうけた 穂
ほうけた 穂なのかい
わたしぢや なかつたのか、え
人を 殺さば
ぐさり! と
やつて みたし
人を ころさば
こころよからん
水に 嘆く
みづに なげく ゆふべ
なみも
すすり 哭く、あわれ そが
ながき 髪
砂に まつわる
わが ひくく うたへば
しづむ 陽
いたいたしく ながる
手 ふれなば
血 ながれん
きみ むねを やむ
きみが 唇《くち》
いとど 哀しからん
きみが まみ
うちふるわん
みなと、ふえ とほ鳴れば
かなしき 港
茅渟《ちぬ》の みづ
とも なりて、あれ
とぶは なぞ、
魚か、さあれ
しづけき うみ
わが もだせば
みづ 満々と みちく
あまりに
さぶし
蝕む 祈り
うちけぶる
おもひでの 瓔珞
悔いか なげきか うれひか
おお、きららしい
かなしみの すだま
ぴらる ぴらる
ゆうらめく むねの 妖玉
さなり さなり
死も なぐさまぬ
らんらんと むしばむ いのり
哀しみの 秋
わが 哀しみの 秋に似たるは
みにくき まなこ病む 四十女の
べつとりと いやにながい あご
昨夜みた夢、このじぶんに
『腹切れ』と
刀つきつけし 西郷隆盛の顔
猫の奴めが よるのまに
わが 庭すみに へどしてゆきし
白魚《しらうを》の なまぬるき 銀のひかり
静かな 焔
各《ひと》つの 木に
各《ひと》つの 影
木 は
しづかな ほのほ
石塊《いしくれ》と 語る
石くれと かたる
わがこころ
かなしむべかり
むなしきと かたる、
かくて 厭くなき
わが こころ
しづかに いかる
大木《たいぼく》 を たたく
ふがいなさに ふがいなさに
大木をたたくのだ、
なんにも わかりやしない ああ
このわたしの いやに安物のぎやまんみたいな
『真理よ 出てこいよ
出てきてくれよ』
わたしは 木を たたくのだ
わたしは さびしいなあ
稲 妻
くらい よる、
ひとりで 稲妻をみた
そして いそいで ペンをとつた
わたしのうちにも
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
八木 重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング