丘にたちて ただひとり
水をうらやみ 空をうらやみ
大木《たいぼく》を うらやみて おりてきたれる
おもたい かなしみ
おもたい かなしみが さえわたるとき
さやかにも かなしみは ちから
みよ、かなしみの つらぬくちから
かなしみは よろこびを
怒り、なげきをも つらぬいて もえさかる
かなしみこそ
すみわたりたる すだま[*「すだま」に傍点]とも 生くるか
胡 蝶
へんぽんと ひるがへり かけり
胡蝶は そらに まひのぼる
ゆくてさだめし ゆえならず
ゆくて かがやく ゆえならず
ただひたすらに かけりゆく
ああ ましろき 胡蝶
みずや みずや ああ かけりゆく
ゆくてもしらず とももあらず
ひとすぢに ひとすぢに
あくがれの ほそくふるふ 銀糸をあへぐ
おほぞらの 水
おほぞらを 水 ながれたり
みづのこころに うかびしは
かぢもなき 銀の 小舟《おぶね》、ああ
ながれゆく みづの さやけさ
うかびたる ふねのしづけさ
そらの はるけさ
こころ
そらの はるけさを かけりゆけば
豁然と ものありて 湧くにも 似たり
ああ こころは かきわけのぼる
しづけき くりすたらいんの 高原
霧が ふる
霧が ふる
きりが ふる
あさが しづもる
きりがふる
空が 凝視《み》てゐる
空が 凝視《み》てゐる
ああ おほぞらが わたしを みつめてゐる
おそろしく むねおどるかなしい 瞳
ひとみ! ひとみ!
ひろやかな ひとみ、ふかぶかと
かぎりない ひとみのうなばら
ああ、その つよさ
まさびしさ さやけさ
こころ 暗き日
やまぶきの 花
つばきのはな
こころくらきけふ しきりにみたし
やまぶきのはな
つばきのはな
蒼白い きりぎし
蒼白い きりぎしをゆく
その きりぎしの あやうさは
ひとの子の あやうさに似る、
まぼろしは 暴風《はやて》めく
黄に 病みて むしばまれゆく 薫香
悩ましい まあぶる[*「まあぶる」に傍点]の しづけさ
たひらかな そのしずけさの おもわに
あまりにもつよく うつりてなげく
悔恨の 白い おもひで
みよ、悔いを むしばむ
その 悔いのおぞましさ
聖栄のひろやかさよ
おお 人の子よ
おまへは それを はぢらうのか
夜の薔薇《そうび》
ああ
はるか
よるの
薔薇
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