z等まるまり、身動きもせぬ、
真ツ赤な気孔の息吹《いぶき》の前に
   胸かと熱い息吹の前に。

メディオノーシュ(1)に、
ブリオーシュ(2)にして
   麺麭を売り出すその時に、

煤けた大きい梁の下にて、
蟋蟀《(こほろぎ)》と、出来たての
   麺麭の皮とが唄《(うた)》ふ時、

窯の息吹ぞ命を煽り、
襤褸《(ぼろ)》の下にて奴等の心は
うつとりするのだ、此の上もなく、

奴等今更生甲斐感じる、
氷花に充ちた哀れな基督《エス》たち、
   どいつもこいつも

窯の格子に、鼻面《はなづら》くつつけ、
中に見えてる色んなものに
   ぶつくさつぶやく、

なんと阿呆らし奴等は祈る
霽《(は)》れたる空の光の方へ
   ひどく体《からだ》を捩じ枉《(ま)》げて

それで奴等の股引は裂け
それで奴等の肌襦絆
   冬の風にはふるふのだ。

  註(1)断肉日の最終日にとる食事。
   (2)パンケーキの一種。
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 谷間の睡眠者


これは緑の窪、其処に小川は
銀のつづれを小草《をぐさ》にひつかけ、
其処に陽は、矜《(ほこ)》りかな山の上から
顔を出す、泡立つ光の小さな谷間。

若い兵卒、口を開《あ》き、頭は露《む》き出し
頸は露けき草に埋まり、
眠つてる、草ン中に倒れてゐるんだ雲《そら》の下《もと》、
蒼ざめて。陽光《ひかり》はそそぐ緑の寝床に。

両足を、水仙菖《(すゐせんあやめ)》に突つ込んで、眠つてる、微笑むで、
病児の如く微笑んで、夢に入つてる。
自然よ、彼をあつためろ、彼は寒い!

いかな香気も彼の鼻腔にひびきなく、
陽光《ひかり》の中にて彼眠る、片手を静かな胸に置き、
見れば二つの血の孔《あな》が、右脇腹に開《あ》いてゐる。
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 食器戸棚


これは彫物《ほりもの》のある大きい食器戸棚
古き代の佳い趣味《あぢ》あつめてほのかな※[#「木+解」、第3水準1−86−22]材《(かし)》。
食器戸棚は開かれてけはひの中に浸つてゐる、
古酒の波、心惹くかをりのやうに。

満ちてゐるのは、ぼろぼろの古物《こぶつ》、
黄ばんでプンとする下着類だの小切布《こぎれ》だの、
女物あり子供物、さては萎んだレースだの、
禿鷹の模様の描《か》かれた祖母《ばあさん》の肩掛もある。

探せば出ても来るだらう恋の形見や、白いのや
金褐色の髪の束《たば》
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