フ下にて崇めらる、ペルシャの国の、
或る知られざる神の持つ、銅《あかがね》に縁《ふち》どられたる額して、
慓悍《(へうかん)》なれども童貞の悲観的なるやさしさをもち
おのが秀れた執心に誇りを感じ、
若々し海かはた、ダイアモンドの地層の上に
きららめく真夏の夜々の涙かや、
此の若者、現世《うつしよ》の醜悪の前に、
心の底よりゾツとして、いたく苛立ち、
癒しがたなき傷手を負ひてそれよりは、
やさしき妹《いも》のありもせばやと、思ひはじめぬ。
さあれ、女よ、臓腑の塊り、憐憫の情持てるもの、
汝、女にあればとて、吾《あ》の謂ふやさしき妹《いも》にはあらじ!
黒き眼眸《まなざし》、茶色めく影睡る腹持たざれば、
軽やかの指、ふくよかの胸持たざれば。
目覚ます術《すべ》なき大いなる眸子《ひとみ》をもてる盲目《めくら》の女よ、
わが如何なる抱擁もつひに汝《なれ》には訝かしさのみ、
我等に附纏《いつきまと》ふのはいつでも汝《おまへ》、乳房の運び手、
我等おまへを接唇《くちづけ》る、穏やかに人魅する情熱《パシオン》よ。
汝《な》が憎しみ、汝《な》が失神、汝が絶望を、
即ち甞ていためられたるかの獣性を、
月々に流されるかの血液の過剰の如く、
汝《なれ》は我等に返報《むく》ゆなり、おゝ汝、悪意なき夜よ。
★
一度女がかの恐惶《(きようくわう)》、愛の神、
生の呼び声、行為の歌に駆り立てられるや、
緑の美神《ミューズ》と正義の神は顕れて
そが厳めしき制縛もて彼を引裂くのであつた!
絶えず/\壮観と、静謐《(せいひつ)》に渇する彼は、
かの執念の姉妹《あねいもと》には見棄てられ、
やさしさ籠めて愚痴を呟き、巧者にも
花咲く自然に血の出る額を彼は与へるのであつた。
だが冷厳の錬金術、神学的な研鑚は
傷付いた彼、この倨傲なる学徒には不向きであつた。
狂暴な孤独はかくて彼の上をのそりのそりと歩き廻つた。
かゝる時、まこと爽かに、いつかは彼も験《な》めるべき
死の忌はしさの影だになく、真理の夜々の空にみる
かの夢とかの壮麗な逍遥は、彼の想ひに現れて、
その魂に病む四肢に、呼び覚まされるは
神秘な死、それよやさしき妹《いも》なるよ!
[#改ページ]
最初の聖体拝受
※[#ローマ数字1、1−13−21]
それあもう愚劣なものだ、村の教会なぞといふものは
其
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