つて来て、私のまはりに羽搏《(はばた)》いて
私の頭《かうべ》を取囲み、我が双の手を
草花の鎖で以て縛《いまし》めた。又、顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》を
薫り佳き桃金嬢もて飾り付け、さて軽々《かろがろ》と私を空に連れ去つた
彼女らは雲々の間《あひだ》を抜けて、薔薇の葉に
仮睡《まどろ》みゐたりし私を運び、風神は、
そが息吹《いぶ》きもてゆるやかに、我がささやかな寝台《とこ》をあやした。
鳩ら生れの棲家に到るや
即ち迅き飛翔もて、高山《たかやま》に懸かるそが宮殿に入るとみるや、
彼女ら私を打棄てて、目覚めた私を置きざりにした。
おお、小鳥らのやさしい塒《ねぐら》!……目を射る光は
我が肩のめぐりにひろごり、我が総身はそが聖い光で以て纏はれた。
その光といふのは、影をまじへ、我らが瞳を曇らする
そのやうな光とは凡《おほよ》そ異《ちが》ひ、
その清冽な原質は此の世のものではなかつたのだ。
天界の、それがなにかはしらないが或る神明《しんめい》が、
私の胸に充ちて来て大浪のやうにただようた。

やがて鳩らはまたやつて来た、嘴々《くちぐち》に
調べ佳き合唱を、指《および》もて指揮するを喜んだ
アポロンのそれに似た、月桂樹編んで造れる冠|携《たづさ》へ。
さて鳩らそを我が額《ぬか》に被《かづ》けるとみるや
空は展《ひら》かれ、めくるめく我が眼《め》には、
フ※[#小書き片仮名ヱ、12−5]ビュス親しく雲の上、黄金の雲の上、飛び翔けり舞ふが見られた。
フ※[#小書き片仮名ヱ、12−6]ビュスは我が上にそが神聖な腕を伸べ、
又頭の上には、天上の炎もて
※[#始め二重括弧、1−2−54]|汝《なんぢ》詩人たるべし!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と記《しる》した。すると我が四肢に
異常の温暖は昇り来り、そが清澄もて光り耀く
清らの泉は太陽の光に炎《(も)》え立つた。
扨《(さて)》も鳩ら先刻《さき》にせる姿を改め、
美神《※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ニュス》等|合唱隊《コーラス》を作《な》し優しき声もて歌を唱へば
鳩らそが腕に私を抱きとり、空の方へと連れ去つた
三度《みたび》※[#始め二重括弧、1−2−54]汝、詩人たるべし!※[#終わり二重括弧、1−2−55]と呼び、三度《みたび》我が額《ぬか》を月桂樹もて装《よそほ》うて、空の方へと連れ去つた
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