「そりゃまた一体、何ごとがもちあがったんだい?」
「まあ、ずっとお通りください、お話ししますから。」
 家内は僕に耳うちして、
「てっきりあの古狸のやつに一杯くわされたんだわ。」
 僕はこたえて、
「おれの知った事じゃないよ。」
 さてわれわれが通ると、弟は封の切ってある一通の手紙をわれわれに示した。それはその朝はやく市内郵便で、両人の名宛で配達されたもので、次のような文面だった、――
『真珠にからむ迷信などにびくつくこと一切無用なり。あの真珠はにせもの[#「にせもの」に傍点]なれば。』
 家内は、どうとばかり尻餅をついちまった。そして、
「ちぇっ、ひどい奴!」と、ただ一言。
 ところが弟は、マーシェンカが寝室で朝化粧をしている方角を、あごで指してみせながら、こう言うのだ、――
「姉さん、そりゃ違います。あの老人のやり方は正々堂々たるもんですよ。僕はこの手紙をうけ取って、一読おもわず呵々大笑しましたね。……一体なんの泣きべそかくことがあるんです? 僕のさがしていたのは持参金じゃなく、またそれが欲しいとも言いやしませんでした。僕のさがしていたのは、女房だけです。だから、あの首飾りの真
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