マーシャは、もうちゃんと化粧着を羽織って、出て来ました。
――おめでとう』と、舅さんが言います。
マーシャは父親の手に接吻しました。
――どうだな、仕合わせになりたいかな?』
――そりゃパパ、なりたいわ。それに……どうやら成れそうですわ。』
――よしよし。……お前さん運よく、いい聟がねを引き当てたぞ!』
――あらパパ、あたし引き当てなんぞしませんわよ。神様から授かったんですわ。』
――ああ、よしよし。神様がお授けくだすった。じゃわしは、ちょいと景品を[#「景品を」に傍点]つけさせて貰おうかな。わしは、お前の幸福を、ちっとばかり殖やしてやりたいのさ。ご覧、ここに手形が三枚ある。みんな同じ金高だ。一枚はお前にやる、残る二枚は姉さんたちにおやり。お前の手で分けておやり――これはお前の志[#「お前の志」に傍点]だといってな。……』
――まあパパ!』
マーシャは最初お父さんの首っ玉へかじりつきましたが、やがていきなりぺたりと床べたに坐りこむと、嬉し涙をぼろぼろこぼしながら、親父さんの膝に抱きつきました。見ると――親父さんも泣いていました。
――お立ち、お立ち!』と、親父さんが言います。――『それでお前は、下世話にいう「奥方さま」だ、――わしなんぞに土下座するなんて法はないわい。』
――でもあたし、ほんとに嬉しくって……さぞ姉さんたちが!……』
――まあいい、まあいい。わしも嬉しいぞ!……どうだな、やっと分ったろう、真珠の首飾りなんか怖くもおそろしくもないことが。そうさ、わしはお前に秘密を明かそうと、わざわざやって来たのだったな。それは他でもない、わしがお前に贈物にした似せの真珠[#「似せの真珠」に傍点]は、わしがずっと以前、心をゆるした親友に一杯くわされた代物なのだよ、……何しろその来歴というのがな、――畏《かし》こしとも畏こし、帝室の御物《ぎょぶつ》と唐室の御物とを、一つにつなぎ合わせた稀代の逸品という触れこみなのさ。それに引きかえ、お前さんのご亭主は、この通りの無骨な男じゃあるが、こういう男に一杯くわせるなんていうことは、とても出来ることじゃない、人間のたましいが、だいいち承知をせんわい!』」
「僕の話というのは、これでおしまいだよ」と、語り手は物語をむすんだ、――「いかがです、お聞きの通りの現代の出来事ではあり、嘘いつわりのない実話でもあるんだが
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