いものだよ。」
「そりゃ、なるほど求婚はしますわ、――けれど、念入りに選り分けるとか慎重に選り分けるなんていうことは、とてもあり得ないことですわ。」
僕はかぶりを振って、こう言った。――
「もう少し、自分の言ってることを、検討して見ちゃどうかね。例えば僕はこうして、君というものを選んだじゃないか、――それというのも、君を尊敬し、君の長所を見抜いたからじゃないか。」
「嘘ばっかり。」
「嘘だって?」
「嘘ですとも、――だって、あなたがこのわたしを選んだのは、決して長所を見ぬいたためなんかじゃないんですもの。」
「じゃ、なんだというんだい?」
「わたしのことを、ちょいといい女だ、と思っただけのことだわ。」
「いやはや、君はじぶんには長所なんかないとでも言うのかい!」
「とんでもない、長所ならちゃんとあります。でもあなたは、わたしのことをいい女だとお思いにならなかったら、やっぱり結婚はなさらなかったでしょうよ。」
僕は、なるほどこれは一本参ったと思ったね。
「そうは言うけどね」と、僕は陣容を立てなおして、――「僕はまる一年も待って、君の家へかよったじゃないか。どうして僕がそんな真似をしたと思うかね?」
「わたしの顔が見たかったからよ。」
「ちがう、――僕は君の性格を研究していたんだ。」
家内は、ほゝゝゝと笑いだした。
「そら笑いはよしてくれ!」
「そら笑いなんかじゃなくてよ。そんなこと仰しゃったって、結局なに一つわたしの研究なんかなさらなかったのよ。それに第一、お出来になるはずもなかったのよ。」
「どうしてだい?」
「言ってもよくって?」
「ああ頼む、言ってくれ!」
「それはね、あなたがわたしに恋しちまったからよ。」
「まあ、それもよかろう。だがそれが僕にとって、君の精神的な性質を見るうえの妨げになったわけでもあるまい。」
「なったわ。」
「いいや、ならん。」
「なったわ。しかも誰にだって妨げになるものなのよ。だから、いくら長いことかかって研究したところで、なんの役にも立ちゃしないのよ。あなたは、相手の女に恋していながら、しかもその女を批判的に見てらっしゃる[#「その女を批判的に見てらっしゃる」に傍点]おつもりだけれど、実は空想的にぼんやり眺めてらっしゃる[#「空想的にぼんやり眺めてらっしゃる」に傍点]に過ぎないのよ。」
「ふうむ……だがなあ」と僕、――「どうも君は
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