訳をする。
「二十五銭は金のうちにゃはいらないのかい? その二十五銭という奴を、お前さんだいぶ道々拾っていたっけが([#ここから割り注]訳者註。投げ銭を拾うのである[#ここで割り注終わり])、ばらまいた数だって、もう相当なもんだぜ。」
「だから、セリョージャ、ちょいちょい逢えたじゃないの。」
「ふん、飛んだこった。さんざ辛い目をした挙句に、ちっとやそっと逢えたところでくそ面白くもねえじゃないか! 自分の命《いのち》を呪うのが本当だ、逢曳どころの騒ぎじゃねえぜ。」
「でもセリョージャ、あたしは平気だよ。お前さんに遭えさえすりゃあ。」
「ばかなはなしさ」とセルゲイは答える。
 そうした返事を聞くたびに、カテリーナ・リヴォーヴナは思わず唇を、血のにじむほど噛みしめる。さもなければ、ついぞ泣いたことの無い彼女の眼に、無念さ怨めしさの涙が夜更けの逢う瀬の闇にまぎれてあふれ出る。けれど彼女はじっと腹の虫をおさえて、じっと口に蓋をして、われとわが心をあざむこうと努めるのだった。
 そんなふうな新しいお互いどうしの関係のまま、二人はニジニ・ノーヴゴロドに着いた。ここで彼らの囚人隊は、やはりシベリヤをめ
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