の寝間へはいって行くと、少年は栗鼠の外套をきてベッドに腰かけて、聖者伝を読んでいるところだった。
「何を読んでるの、フェージャ?」と、カテリーナ・リヴォーヴナは肱掛椅子にかけて、少年にたずねた。
「聖者伝ですよ、おばさん。」
「おもしろいこと?」
「ええ、とても面白いの、おばさん。」
カテリーナ・リヴォーヴナか片手で頬杖をついて、フェージャのもぐもぐ動いている唇を見まもっていたが、そのとき急に悪魔が鎖から抜けだしでもしたかのように、いつもながらあの考え――つまり、この子のおかげで自分はひどい迷惑を蒙っている、この子がいなかったらさぞさばさばするだろうに、という考えが、むらむらっと胸に湧いてきた。
『ほんとにそうだったわ』と、カテリーナ・リヴォーヴナは思うのだった、――『この子は病気で薬をのんでるんだわ。……病気のときは、えてして色んな故障が起りがちなものだ。……万一のことがあったところで、医者がつい盛り違えをしたんだろう――くらいなところで、済んでしまうに決まってるわ。』
「そろそろ薬の時間じゃないこと、フェージャ?」
「ええ、どうぞ、おばさん」と少年は答えてスプーンを一啜りすると、
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