いけれど」と、意味ありげな流し目を一つくれて、言葉をつづけた、――「そうは問屋がおろさないことよ。あたしはただ、あんたのその威し文句をうかがう先から、あんたに対してこうしようとちゃんと胸のなかで決めていたことを、そのまま実行するだけのことですわ。」
「そりゃなんのことだ? ええ出て失せろ!」と、ジノーヴィー・ボリースィチはセルゲイをどなりつけた。
「おっとどっこい!」と、カテリーナ・リヴォーヴナがおひゃらかした。
 彼女はすばやくドアの錠をおろすと、鍵をポケットへ押しこみ、例の更紗のブラウス姿で、またもやどしりとベッドにおみこしを据えた。
「ちょいと、セリョージェチカ、こっちへおいでな。ねえ、おいでったら、おまえ」と、彼女は番頭を手まねきした。
 セルゲイは、渦まき髪をさっと一振りゆすりあげると、勇敢にずかりとおかみさんのそばへ腰をおろした。
「やれやれ! あさましいわい! 一体なんたることだ? 犬畜生じゃあるまいし、それは一たい何たるざまだ!」と、満面さっと紫色に変じて、肘かけ椅子から立ちがりながら、ジノーヴィー・ボリースィチはわめき立てた。
「どう? お気に召さなくって? まあとっ
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