テリーナ・リヴォーヴナは絶叫すると、さっとハンカチのように蒼ざめて、やにわにドアの外へ躍りだしていった。
「さあ、連れて来ましたわ」と、何秒かののち、セルゲイの袖をぐいぐい引っぱって、部屋へ引きずり込みながら、彼女は口走った。――「ご存じの筋は何なりと、この人になりあたしになり、片っ端からおたずねになるがいいわ。ひょっとすると、知りたいと思ってらっしゃる以上のことが、何かお耳にはいるかも知れませんわよ。」
ジノーヴィー・ボリースィチは、かえって呆気にとられてしまった。彼は、戸口の柱ぎわに突っ立っているセルゲイを見やったり、あるいは腕組みをしてベッドのふちに平然と腰をおろした細君を見やったりしていたが、一たいこの騒ぎはどういうことになるものやら、さっぱり見当がつかないのだった。
「一たいどうしようっていうんだ、毒婦め?」と、やっとの思いで口を切ったが、肘かけ椅子に坐りこんだままだった。
「よく知ってらっしゃるというその事を、どしどしお尋ねになるがいいでしょ」と、カテリーナ・リヴォーヴナはしゃあしゃあと答えた。――「あんたは、威かしさえすりゃあたしが震えあがるとでも、思ってらっしゃるらし
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