たら、小作料を取り立てに歩く差配さんにそっくりだった。
カテリーナ・リヴォーヴナが、猫のふかふかした毛並みに指をさし入れて、もぞつかせはじめると、相手はただもう無性に鼻づらをすり寄せてくるのだった。もっさりと気の利かない髭面を、むっちりした胸のふくらみへ押しこんできながら、何やら小声で鼻唄をうたいだす様子は、その唄がやがて恋のささやきででもあるかのようだった。――『おや、ぜんたいなんだって、こんな猫がはいって来たんだろう?』とカテリーナ・リヴォーヴナは考える、――『凝乳《クリーム》をあたし、あの窓わくのところに載っけといたっけが、てっきりこの野良猫め、あれを狙っているんだわ。よおし、追い出しちまおう』と、彼女は思いさだめて、その猫をつかまえて抛りだそうとしたが、とたんに相手はまるで霞みたいにするりと指のあいだをすり抜けてしまうのだった。――『それにしても一たいどこから、この猫の奴はいり込んだんだろう?』と、悪夢のなかでカテリーナ・リヴォーヴナは思案をつづける、――『あたしたちの寝室には、ついぞ猫なんかいたためしはなかったのにさ。よりによってええ畜生、とんだどら猫が舞いこんだものだよ!
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