「うちのフィオーナおばさんは観音さんみたいなものさ。誰の気もそらさねえからな」と、囚人たちは異口同音にそんな冗談口をたたくのだった。
ところがソネートカになると、話ががらりと違う。
「ありゃあウサギの性だよ。手のまわりをぬらりくらりするばかりで、いつかな手に入らねえや」という評判である。
ソネートカにはちゃんと好みがあり、一歩も譲れぬ註文があった。それも只の註文ではなく、頗るきびしい註文と言えるかも知れない。色恋を生《なま》のまま皿に盛って出したのでは、彼女はいつかな食指を動かさない。ぴりりと舌にくる薬味――つまり苦労や犠牲が、ぜひとも入用なのだ。それに引きかえフィオーナは、例のさばさばしたロシヤ流儀まる出しで、寄ってくる相手に『うるさいわね』などと剣突を食わすことさえ第一面倒くさく、自分が女一匹だということのほかは何一つ念頭にないのだった。こうした女性は、集団強盗とか囚人隊とか、またはペテルブルグの社会民主主義団体とかいった仲間では、殊のほか珍重されるのである。
さて右のような二人の女性が、セルゲイやカテリーナ・リヴォーヴナと一つ隊の仲間として出現したことは、後者《カテリーナ》
前へ
次へ
全124ページ中101ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング