ったふうの、趣向を凝らすことができたのであった。
 ところが伯爵の人となりに欠けていたものは、アルカージイにとっては残念至極なことだが、何よりもその堂々たる威厳であり「武人の風格」であったのだ。
 まあそんな次第で、世間の誰ひとりとして、このアルカージイほどの無双の美術家の奉仕にあずからしめまいという伯爵の方寸からして、あわれ彼は「休暇というものを一生涯もらえず、また生まれ落ちてこのかた一文のお銭もその手のうちに見ずに」いぶり暮らしていたのであった。しかも彼はすでに満二十五歳をすぎ、リュボーフィ・オニーシモヴナは十九歳の妙齢にあった。二人が相識の間がらであったことは言うまでもないが、それがやがて、その年頃にはえてして起りがちの状態にまで進んだ。つまり二人は相愛の仲になったのである。とはいえ彼らの愛のささやきはただ衆人環視のなかで顔を作らせ作られながら、それとなしに交わす目まぜ目くばせに限られていた。
 二人さしむかいの逢う瀬などは、どだい出来ぬ相談なばかりか、夢にも考えられぬことなのだった。……
「わたしたち女優は」と、リュボーフィ・オニーシモヴナは語るのだった、――「ずいぶん大切に目
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