弟が二歳で、リュボーフィ・オニーシモヴナの手に抱かれていた頃、わたしはもう満九歳ほどになっていたので、してもらう話がすらすら呑みこめたわけである。
 その頃のリュボーフィ・オニーシモヴナは、まだ大して老けこんではおらず、まるで月のように色白だった。目鼻だちはほっそりと優しく、脊の高いそのからだはまっ直ぐに伸びきって何ともいえぬいい恰好で、まるで若い娘のようだった。
 母や叔母は、つくづくその様子を眺めながら、若い頃にはさだめし美人だったに違いないと、言い言いしたものである。
 彼女はじつに正直で、じつに柔和で、情あいのじつに濃やかな女だった。人生の悲劇的な面が好きで、しかも……時たまはかなり酒をやった。
 彼女はわれわれ兄弟をよく三位一体寺の墓地へ散歩に連れて行ってくれたが、そこではいつも、古びた十字架のついたとある質素な墓のうえに腰かけて、わたしに何か話を聞かせてくれたものである。
 わたしが彼女から「かもじの美術家」の話を聞いたのも、やはりそこでのことだった。

      ※[#ローマ数字3、1−13−23]

 その男は、うちの乳母の劇場なかまであった。違うところといえばただ、
前へ 次へ
全55ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
レスコーフ ニコライ・セミョーノヴィチ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング