「もしこのわしを、兄者びとカミョンスキイ伯爵同様の男ぶりに仕上げてくれる者があったら、その者には小判二枚をとらせよう。万が一わしに切り疵をつけるような者にたいしては、これこのとおりピストルが二挺テーブルの上にあるぞ。首尾よく仕了せた者は、小判を持って退散するがよい。吹出物ひとつ切るなり、頬ひげ一本やり損じた者があったら、たちどころに一命は貰い受けるぞ。」
だがこれは唯のおどし文句なのでした。二挺のピストルには空包《からだま》がこめてあったのですよ。
当時オリョールには床屋がたんといなかったし、いる連中にしたところで、たかだか受け皿を手に持って風呂屋まわりをしたり、吸角《すいだま》や蛭をつけたりするぐらいが関の山で、趣味とか趣向とかいうものは薬にしたくも持合せのない手合いでした。それは自分から承知の前でしたから、一同みなカミョンスキイ「御変容」の大役を辞退におよびました。『まあどうなりと御勝手に』と、床屋たちは胸中ひそかに考えたのです、――『お前さんも、お前さんのその小判もな。』
「わたくしどもには」と、口々に言上しました、――「とても及ばぬ大役でございます。そのようなお偉いお方の
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