その立廻りのあざやかさ、真っこうから切ってかかると肩をすかして泳ぐ奴、ハッシと小手をたたいて刀を取りあげるやバッサバッサと、一人、二人、三人、胴、胸、首とまたたく間に斬り伏せられ、血刀ふるいエーイ、と舞台せましと大見栄を切る、その美事さ、思わず拍手がわきおこる。
「ごめんよごめんよ」
コーフンしたのか急に気の強くなったラキ子さん、大の男たちを胸でおしまくりながら廊下に出る。
「おや、ラキ子ちゃん、すごく張り切っちゃって、ドーしたの、こりゃ驚いた」
「わたしはじめて女剣戟みたんだけれど、すっかり気分がよくなって、まるで上等のソーダ水をのんだように胸がスウートしたわ」
「何にさ、その腕をまくってふり廻すのは」
「そばへよっちゃあぶないわよ、わたしの腕も弁天お蝶のようにムズムズ鳴りだしているのだから」
「はずかしいなアー、案内嬢が笑っているよ」
「へいちゃらよ、文句があるならやっつけちまうから、サアーコーなったらわたしは女剣戟フアンだから、ソレッ、楽屋へ行って筑波澄子さんに面会……急げッ!」
4
奥の細道のような楽屋廊下を通って、段々ばしごを中二階へ、水色の筑波澄子嬢へ
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