川路龍子や小月冴子のお小姓姿で刀をぬくとこも見たことあるわよ」
「S・K・Dのようななまやさしいもんじゃないよ、まかりまちがえれば、プッツリ頬ぺたにささっちまうんだから」
ギュウギュウと扉にはみ出している観客のお臀をおしくらしてやっと舞台の見えるところにはさまるとラキ子、
「マア! わたしどうしましょう」
「ホーラもうはじまった。いくじなしだなアー」
「ちがうのよ、見廻したところ男ばっかりよ、女はあたし一人きりよ。パチンコの十八歳未満はいけないと同じように、女剣戟は女性が見物しちゃいけないのじゃない」
「そんなことあるもんか、入口に女性は御遠慮下さいなんて書いてないよ」
「ソーオ」
「でも男性としてはあんまり見てもらいたくないね、ただでさえアプレ娘は気が強くて男性を馬鹿にしているんだから、これ以上女剣戟なんか見て男をポンポンなぜ切りされてはかなわないからネエ」
「マア!」
3
舞台は「恋情緋牡丹くずれ」第四場の幕が開き、博徒の親分釈迦堂の重五郎が児分の者どもに善人をいためさし、金品を巻き上げ、婦女子をかどわかし、その為に泣きの涙で自殺まで思い込む呉服問屋の伜清二郎
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