そこで編集部のラキ子さんから
「モシモシ、小野の旦那ですか、こちらはラキ子です。すごいニュースなのよ、浅草のひょうたん池の端で女一人に男十三人と果合いがあるんですって」
「ほんとですか」
「ほんとよ! 今日の午後三時」
「あの六区の池はいま権利あらそいで問題となっている、それだなア」
「なんだか知らないけれどすごいニュースよ。ではお待ちしているわよ、サヨナラ」
 オホッ、すごいスリルだぞと浅草は六区のひょうたん池の端に飛んでいったら、喧嘩どころか、馬鹿に静かで、ただ見世物見物の客でにぎわっているだけ、
「オホホ、来たわね」
「こら、ラキ子、うそつき」
「うそじゃないわ、ソーラ、そこのロック座で筑波澄子劇団が、振袖姿で荒くれ男十三人と、いま流行の女剣戟をやっているじゃない?」
「チェッー、 一ぱいくわされた」

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 劇場内は満員で立錐のよちもない。
「マア! すごい入りね」
「だいじょうぶかいラキ子ちゃん、日本刀でバッタバッタと斬りまくるんだぜ。脳貧血を起してぶったおれたりしちゃ僕いやだぜ」
「へいちゃらよ、こう見えても江戸ッ子よ、松竹少女歌劇《エス・ケー・デー》の
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