ざしに輝いた筑波澄子さんとはとても思いもつかぬおぼこな姿。こんな可愛いい、優しい座頭なんて見たことがない。筑波さんの美しい襟足から胸へかけて汗をぬぐう時チラリと胸のふくらみのあたりを拝見してしまったのです……コレ眼よ! お前はいつもそんなところ見たがる無礼者メッ……。
「失礼ですが、胸は新しいさらしで巻いていらっしゃいますね。肌の色と真新しいさらしの白さがとても清潔な清らかさで気持がいいですね」
「アラ、いけませんね。このサラシはあのようにあばれますのでキリリとしめておかないと乳房が飛び出して飛んだ失礼をしてしまうのですよ、オホホ」
 ラキ子さんが、そんなチャンスを見て行きたいと思っているのでしょうと僕の顔をねめつけた。ゴメンなさい。
「それにまちがって刀のきっさきにさされた時の防備にもなるのです」
 そして笑う筑波さんの後の壁には刀剣が数十本、道中ざし、陣太刀、侍の大小、思い思いの風格のあるさやにおさまって綺麗に飾られてある。気がついて広い楽屋の中を見廻すとあちらの壁こちらの壁いたるところ、刀、十手、槍のたぐいが飾られてあるのではありませんか。
「それですね。あの舞台で観客の血をわかす刀は」
「そうです、一つお眼にかけましょう」
 若いしゅうが五、六本刀をはずして私達の前に置きました。
「ぬいて御覧あそばせ」
 僕もラキ子さんもこわごわ手にするとその重いこと、
「それは本身の鉄です。こちらがジュラルミン、そこにあるのが樫の身に銀箔を張ったものです。なかなか種類がございましょう」
 どれも、これも、その光はそこびかりがして、何か人の血をすうようなけはいがするではありませんか。
「その木の身の奴は軽くってあつかいよいのですが、やはり本身のものはずっしりと、腕にこたえて調子がようございます。そちらのジュラルミンは御覧の通りまるで魚の歯のように、はこぼれがしているでしょう。斬り結ぶ時、はがこぼれるのですよ」
「こんなになるぐらいでは、すごい力で刄合せをするのですね」
「本気ですよ。それでないと気迫がやはりお客様に感じないのです」
 馬鹿に静かだと思っていたらラキ子嬢、手ごろのやつのつかをずッしりとにぎって眼をすえている。
「狂人に刄ものというたとえがありますよ、ちょいとその刀をおかえしなさい」
「……」
「それではおいそがしいところを失礼しました、さようなら」
 桑原々々
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