川路龍子や小月冴子のお小姓姿で刀をぬくとこも見たことあるわよ」
「S・K・Dのようななまやさしいもんじゃないよ、まかりまちがえれば、プッツリ頬ぺたにささっちまうんだから」
ギュウギュウと扉にはみ出している観客のお臀をおしくらしてやっと舞台の見えるところにはさまるとラキ子、
「マア! わたしどうしましょう」
「ホーラもうはじまった。いくじなしだなアー」
「ちがうのよ、見廻したところ男ばっかりよ、女はあたし一人きりよ。パチンコの十八歳未満はいけないと同じように、女剣戟は女性が見物しちゃいけないのじゃない」
「そんなことあるもんか、入口に女性は御遠慮下さいなんて書いてないよ」
「ソーオ」
「でも男性としてはあんまり見てもらいたくないね、ただでさえアプレ娘は気が強くて男性を馬鹿にしているんだから、これ以上女剣戟なんか見て男をポンポンなぜ切りされてはかなわないからネエ」
「マア!」
3
舞台は「恋情緋牡丹くずれ」第四場の幕が開き、博徒の親分釈迦堂の重五郎が児分の者どもに善人をいためさし、金品を巻き上げ、婦女子をかどわかし、その為に泣きの涙で自殺まで思い込む呉服問屋の伜清二郎に義憤を感じた腰元実は義賊、弁天お蝶(筑波澄子扮する)が、小間物売女に化けて、重五郎の家に現れ、やくざ一家の者共を前に胸のすくような啖呵を切る情景に観客は手に汗を握るクライマックスにせまっている。
「ソー見やぶられたらしかたがねエー、ただの小間物屋とは真赤ないつわり、耳の穴をかっぽじってようく聞けよ、わっちゃあ、極悪非道の野郎から盗み取り、こまった人にはほどこしをする、泣く子もだまるいま名代の弁天お蝶とは、わたしのことよ」
「ゲェッ」
赤まえだれのいちょう返し、虫も殺さぬ娘さんが、いきなり豹変して、クルリと臀をまくり、腰の緋じりめんも色あざやか、レビューガールの脚もなんのその水もしたたる脚線美、あでやかな脚光をあびてさながら生きた錦絵模様が舞台一ぱいにくりひろげられた。
「まってました。スス、スミーちゃん」
「トウリョーウ」
客席から声がかかる。
「マアー素敵」
ラキ子ちゃんは思わず僕の肩を握りしめのびあがった。
「うーぬ弁天お蝶! 野郎共やっちまえ」
「合点だ」
と、児分の面々、あいくち、長ドスをひらめかして斬ってかかる。
「しゃらくせえ」弁天お蝶は剣をぬって素手で渡り合う、
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