はだけたゆかたに白い肌をちらつかせ、一列にならんだ散兵隊、女軍突進さながらに勢いはげしくおそいくる、その迫力にたじたじと、思わず胸をどきつかせ、坐りなおして太ももをしっかりつけて脚もがたがた。
「ネー先生、一ぱいいかが」
と、尾崎士郎旦那の前に坐ったのは、眼をうっとりさせた星ひろ子さん、
「私ねー、人生劇場大好きよ、青成瓢吉みたいな人好きですわ」
案外静かな彼女の様子に尾崎旦那は、やれ安心、僕の前にたおれる如く現れたのは、いすずあけみさんというストリッパー、けむのようにやわらかいパーマの髪をなびかして、グイッと盃を飲みほすと、
「わたし、ストリップ・ガールに見える」
「そうだなアー、そおやって浴衣を着ているところは、お人好しのオモチャ屋のお姉さんといったところかな」
「オホホホ、わたし、とても子供が好きなの、無茶苦茶に好きなの、いつでも道を歩いて子供に会うといっしょに遊びたくなるの。おんぶしている赤ちゃんがいるとあやしちまうの。とてもとても可愛くなってしまって持ってっちまおうかな――と思うのよ。わたしの一番やりたいと思っていることわかる」
「ストリッパーでしょう」
「ちがうちがう、幼稚園の先生なの、どーしてもなりたいの、サアー一ぱい、ついで、ちょうだい……」
一息にのみほし、胸をふくらませると、
「幼稚園が駄目なら保姆さんになりたいの、なりたいわ、泣きたくなるくらいなりたいわ私! 舞台に出る前保姆養成所に願書出したの、いつまでたっても返事が来ないのよ。くやしくってくやしくって泣いちゃったわ。あとで聞いたら途中で握りつぶされたの、でも一生死ぬまでになりたいわ。子供ダーイー好き、小野の旦那、あんたお子さんある」
「ウン! 三人いるよ」
「一人くれない」
「やだよ」
「くれなけりゃ、そっと盗んじまうから」
彼女は子供々々と次々盃をさして行くのである。梯子酒というのは知っているが、いすずさんのように子供酒は初めてである。
次に情熱のかたまりのようなマヤ笑さん、襟がはだけて奥の方に丸い乳房が月のように浮かんでいる。
「今日は逃げても駄目、裸にしちまうから」
「おどかすなよ」
「おどかしじゃないわよ、吉例のいけにえだもの……あたしあたし、とても悲しいのよ」
ストリッパーというのは、すぐ泣きたくなったり悲しくなったりするらしい。
「あたし蛇の踊りがしたいの、蛇大好きなの、うちに三匹飼ってんだわ、とても可愛いわよ、だけれど社長さんは、蛇はグロテスクでお客がいやがるから、やっちゃあいけないというのよ、わたしとても悲しいわ」
「僕も蛇はあんまり好かなかったのだけれど南方にいた時、長さ十五尺もある錦蛇を飼っていたんだよ、鵞鳥をのみに来たのをみんなで生捕りにしたのだけれど、これが思ったよりおとなしくってね、マヤさんがいうようにこっちが可愛がると蛇はまるで犬のようになつくものだね」
「あらあんたも蛇好き、マアーうれしい」
彼女は御膳をひっくり返して抱きついてきた。
「今度私の蛇見せてあげるわね、こんあ事なら、ハンドバックに入れて来ればよかったなアー」
と彼女、蛇のことについてはモー夢中である。
「僕は熱帯地でとても熱いでしょう。だから大蛇といっしょにベットに寝ていたんだよ、大蛇め僕の手枕をして、いびきをかくのだもの驚いてしまった。だからうるさいッて頭を軽くたたくと、すみませんてな顔をして寝がえりをしたよ」
「アハハハハ、ほんとね、蛇っていびきをかくわねー、アハハハハ」
マヤさんの笑い声にまじってにぎやかな手拍子がわき起ったので眼を転じると、これはおどろいた、女だてらに眼を皿のようにして歯をむき出し、保姆になりたいなの、あけみさんがゴリラ踊りをやっているではないか。いやそれより驚いたのは、エイうるさいとついに、浴衣をかなぐりすてたのか、あちらこちらにシミーズ一枚、ズROス一つの彼女たち、抱き合ったり、またがったり、乳房を柱にぶつけてトレーニングしたり、おたがいの髪をつかみ合いをしてたわむれたり、まろびつころびつ女体の相打つ響が白い餅をつくように心地よげな音をたてている中を、
「降参々々々々」
と男性が五、六人の女軍に取りまかれ、身につけているもののすべてをはぎとられまいと必死となって抵抗する。滑稽な逃げまどう姿。聖歌がどことなく鳴りひびくような女群のわきたつ群像は、さすがは舞踊芸術に生きる彼女達の自然ににじむ明朗さで、少しも不潔感も不快感もちりっ葉ほども見えぬのは一体どうしたものか。むしろ清流に遊ぶ人魚のたわむれるような心地よさが、みなぎっているのは、天心爛漫、童心にかえったあまりにも自然の姿なのであろうか。私は外分をかざり、いやしみとへつらい、讒訴と虚偽を内に秘した、会社の慰安温泉旅行の仮面をかぶり汚濁に満ちた宴会よりも、心もなにも
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