裸にさらし|酒の神《バッカス》と踊りたわむるこの裸の祭典にまさるものが他にあろうか。宴は益々最高潮、舞台のつもりでつい浮かれでて、浴衣をぬぎ、美事にぬいだストリップ。アッ! 今日はバタフライをつけてなかったか、気がついたが後の祭り、ワアーとはやされ逃げ込むおかしさ。
「サアサアサア今度はかくし芸かくし芸」
「ナニいってるのさ、こう真っぱだかじゃかくすところなんかありゃしないわよー」
滝まさみさんの本調子かっぽれ、続いて星ひろ子さんの日本舞踊、せっかくうまいところを見せようとするのにワアーと群りくる酔女群スルリスルリと着衣をすべり取る。ゆで玉子のように裸にされて、舞台では平気な彼女達、今宵ばかりはキャッと前をおさえて逃げ込む姿もおかしく、マヤじゅん子さんの秘中の秘芸、サラリと浴衣がすべり落ちれば眼もあざむく曲線美、身体のあきちにビールびんかん徳利のアクセサリ、器用に飾っての一踊り、その美事さに思わず歓声、とたんに開け放された屋外の闇の中、ガランドシンの大音響。屋根に登って盗み見の旦那が下に落ちたらしい、いやとんだ罪つくりのストリップ宴会。森マネージャーが耳のそばで、
「ちと荒れぎみでさあ、これからがストリップ台風が吹きまくるのですよ、部屋の唐紙をおさえていても駄目ですよ。陽気な風娘は飛びこんでシャツもパンツも吹き飛ばしてしまいますぜ」
これは大変と尾崎士郎旦那ははや浮き腰、
「キミイ、これはまったく危険だぜ、早く逃げ出そうぜ」
二人はあわてて廊下に飛び出した。
「アラ先生! 逃げるの、逃がさないわ」
ともはや、はやてが吹いて来た。酒にたおれた風娘が階段の下、廊下の真んなか、ドサリ、ドサリ伸びている。
「しっかりしなけりゃ駄目よ――」
と抱きおこす仲間の風娘もやわらかい乳房を重ねてぐったり伸びてしまうものすごさ。サット一陣、はやてがかけ降り、
「待てエー」
と叫ぶストリップ台風、風速正に三十米、
「ソレ来た!」と、二人はだしで外へ飛び出しやっと一息。
「おい君、あのものすごい台風が静まるまでどっかで一つ飲みなおそうよ」
底本:「猿々合戦」要書房
1953(昭和28)年9月15日発行
入力:鈴木厚司
校正:伊藤時也
2010年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora
前へ
次へ
全8ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小野 佐世男 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング