」
と、聞くと、
「いや、そんなことはないですが、今はこのように、上陸する兵隊がまるで少くなったので、日本人でも結構相手にしますよ。盛りの時は、キャバレーなんかよりつけられませんな、何しろ外貨獲得で一生懸命でしたもの、日本人なんか相手にしませんでしたよ。しかしこの頃はこの通りでさァ――」
と、なんとなくしょげ切っている。山水楼という旅館に旅装をといたのだが、一風呂あびて部屋に帰ると、アアッと驚いた。スーツケースもスケッチブックも、何もかもなくなって姿はない。さて泥棒かと、女中さんを呼べば、
「ハイ、みんな御あずかりしております」
と、いうので、やれ安心。
「そんなに用心が悪いのかね」
と、聞くと、
「いや、お客様のお持ち物を大切にするあまりでございます。まことに失礼致しました」
と、いうのです。なんと親切な女中さんであろうと感心したものである。
なにしろ、アメリカの艦隊や輸送船の上陸が制限されましたので、佐世保もこのところ困っているのですよ。ここへ落ちる金は莫大なものでごわしてな、それが中絶されたのでまことに不安状態になってしまったのですよ、それに朝鮮の問題が休戦にでもな
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