赤ちやんを眺めた。
 ヘエー、これでも人間かしら。いやに赤いなあ、猿みたいだ。泣くかどうか試めしてみたくなつたので、頭へ一寸さわつたら顔をしかめた。まだこの世に生を享けてからヤツと十四時間位しかたつてゐないのに、顔をしかめる事を知つてゐるなんて生意気だ。

 赤ちやんの顔を見てゐると、色々な事が次から次へと浮び上つて来る。
 数日前、お友達に、
「今度、家に赤ちやんが生れるのよ」と話したら「え? あなたの御家の犬、牡《おす》だつたでせう」といふので大笑ひした事を思ひ出し、一人でにや/\笑つてしまつた。
 だけど実際、実に不思議だ。昨日までお母様と同じ人間だつたのが、もう今日は立派に一人前の人間だなんて……。実に妙な気持だ、してみると、私ももとはお母様と同一人物だつたのかな。でもおばあ様とも同じ理由だ。もつと/\さかのぼつて私達の遠い/\祖父とも同じなのかしら。
 けれど、それが、今ではかうして一人前になつて、それぞれの考へを持ち、力を持つて生きてゐる。なんと不思議なことなんだらう。しかも、このふしぎなことが、大昔から今まで、何千年となく続き、自分もその仲間のどこかにぶら下つてゐる。
 
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